、何処に行くんだ?」

「―え・・・?」

その場を後にしようとしたは、当然の如くドアの前で呼び止められた。

「大したことじゃないから」

「だが」


ああ、、まただ。その言葉―



「一人で出歩いても問題ないじゃない。それにヴァンと待ち合わせしてるからもう行くね」

と――

つき放つような言葉を口にしてその場を後にした。
テーブルではそんなの態度にバルフレアとフランが目を見合わせ驚いていた。





a doubt




人で賑わうラバナスタ街の中で一人夜空を見上げながら歩き出した。
本当はヴァンと会う約束なんてしていない。
ただ、あの場所で皆と笑って居られなくて、少し一人になりたかっただけ―


小さく鼻歌を奏でながら中央の噴水へと辿りつく。

夜の静けさと水の音、その周りには寄り添いながら楽しそうに会話をする男女が目についた。
何だかそれを見たくなくて避けるように広場を通り過ぎ東門へと進んでいく。

いっそチョコボにでも乗って気晴らしにでも行こうかと考えていると、
偶然地下の扉からヴァンが出てくる姿が見えた。その後ろには荷物を抱えたパンネロの姿。


「おーい!!」

に気がついたヴァンが手を振っていた。
それに応えるように手を振り返し二人の元に歩み寄ると聞こえてきた会話。

「パンネロ、大丈夫か?」

「何?」

「荷物、やっぱ俺が持つから貸して」

手を出されパンネロは少し間を置いて持っていた荷物を言葉と共に渡した。

「ありがとう、ヴァン」

取りとめのない会話。
日常何処にでもある風景のように流れていきそうなのに、の胸はズキリと痛んだ・・・・・。

心配するバッシュを過保護すぎると思っていた自分。

バッシュが心配する言葉を口にした時、
いつも私は強がって彼の言葉を素直に受け取れなかったから−

だから、いつも彼は私を心配していたんだって―――今更、気が付いた。


「無理・・してたんだ私」

こんなところで背伸びしたって追いつく訳が無いのに。

「大丈夫だって言わなきゃ」

でも、それだけじゃ足りないから。私が強くなったことの証を送ろう―












食事が進まなかった。いや。。。それは彼女が居なくなったからか。
自分は変わってしまったと本当に思う。

彼女が視界から消えただけで、こんなにも心がざわついている。
何よりもの態度が心に突き刺さったからだろう―

彼女が少し苛立った様に言葉を返し自分を見ずにその場を後にした。

気になって仕方が無いのに追いかけない。
いや、、、、会って何て言うつもりだ――-

考え込んでいるうちに時間は過ぎ去り、その日はと会う事は出来なかった。


わだかまりの拭えぬ気持ちで次の日を迎えると状況は更に悪化し
悄然としている自分に憤りさえ感じた。

「おはよう」と言葉を交わすの態度がいつもと変わらないのがかえって自分に拍車をかける。

あの時はただ気分が悪かっただけなのか、それとも他に理由があるのか。
いくら思考を巡らせてみても結局同じ答えに行き着いてしまう。

―聞けば分かる。いや聞かないと分からない。


意を決してに会おうとするがその姿が無かった。


聞けば何処かへ出掛けた様だ、と皆は口にした。
何処か、と問えば『バルフレアも一緒だから』心配ないと返された。

それを聞いて俺は安心できた。
彼なら滅多な事がない限り危険に陥る事もない。

ホッと胸を撫で下ろし自分もヴァンや殿下と共に外へと赴いた。
夜になれば会えるだろうと。。。。。

そんな風に楽観的に先延ばしにし会いたくても会えない状況に陥って何日経ったか。
日を追う事に募る想いと不安。

会いたくて仕方がなかった。
遠征先から戻るや否やの元に向かう。
足早になる自分がそこには居て、言葉よりも先にまずその姿を目に映したかった。


もうすぐで会える。そう思っていると、の大きく明るい声が耳に届く―






「ありがとうパンネロ!」

話の途中で割ってはいるのは悪いと思い会話が終わるのを待とうとバッシュは歩を遅めた。




「でも、、どして解ったの?」

「偶然です」

「偶然・・本当?」

「前にヴァンと一緒に話したことあったの今思い出して」

「そっか、でも良かった。私じゃ聞けなかったし。ありがとう」

「いいんです。それよりさん、皆戻って来ちゃうんじゃ・・・」

「そうね、バッシュに知られたら今までの苦労が台無しよね」

は両手を上にあげ背中の筋を伸ばしながら喋る。

「これで淋しい日々も終わるし我慢しなくて済むのね。
 準備も出来たしこれでやっとバルフレアのところに行けるわ」

「あ、そっか。だからこの前2人で」

「本当に悩んだけど思い切って言って良かったわ。バルフレアが付き合ってやるなんて言ってくれると思わなかったし」

「良かったですね、思いが通じて」

「これも愛の力ね。あ、でも内緒よ?」

「もちろんです」

「じゃあ、そろそろ私行くわ」

「あ、砂海亭に行くならこっちの方が」

「一度部屋に戻るから。色々ありがとうパンネロ!」


半身翻しながら手を振り笑顔で手を振る。
は浮かれる自分を抑えながら部屋へと向かっていった―








聞こえてきた会話の全てが突然すぎて把握できない。
いや、理解しているからこそ動けないのか・・・・・。

人の心が移ろぐものだとしても余に―――冷酷だ



本当は聞きたくないのかも知れないのに。
一瞬躊躇したように止まった拳は無意識の内に目の前の扉を叩いた。






ビクリと肩があがった。
部屋に戻って直ぐに聞こえたノックの音と名前を呼ぶ声。

「?!―・・バッ、シュ」

彼が扉一枚隔てた向こう側に彼は居るのだ。本当なら嬉しくて跳びつきたい状況なのに。

下を向いたままそっとドアを開けて嬉しさを噛み殺す。

「―・・・・・

「・・・・・」

いつもの優しさは微塵も感じられない声音。それ位普段と違ったから。
名前を呼ばれ顔を上げたが言葉は詰って出なかった。

「本当の事を言ってくれないか」

言っている意味がよく分からなかった。

「・・・どういう事・・・?」

何をいきなり。

「隠している事があるんじゃないのか」

「そんなこと、ないわ」

隠してるんじゃない、ただ―



「本当よ」

だって、今更言えない。もう少しなのに。



「・・・嘘はやめてくれ」

「一体何を・・・」

「頼む、。これ以上―」


俺を怒らせないでくれ。


「痛っ」

グイッと強く引っ張られた肩。
相手を気遣う事もなくバッシュは冷たく言い放つ。


「どうして言わないんだ」

「そ、れは」

「ッ

「―だって!」

「これから君はバルフレアの処に行くんだろう?!」

「!・・・どう、して」

ハッとしたように口を紡ぐ
聞かなくてもそれが答えなのに、責める言葉は止まらない。




「何の為にそこに行くのか教えてくれないか?」

「・・・・」



「言えない」

「もう隠すこともないだろう。だったら―」

「だったら私がやろうとしてる事くらい解っているんでしょう?知らないフリしてくれればいいじゃない」


こんな時だけ物分りのいい男でいろと言うのか。
たとえ原因が俺の方にあったとしてもそんな事


「―出来る訳がないだろうっ!!」


感情剥き出しに怒鳴りつけてを掴む腕には力が篭る。
顔を歪める彼女を見ても未だ冷静になれない自分―

「は、放してッ!」

「嫌だ」

揺れる瞳で睨みつける

「知ってるのにどうしてそんなに怒るの?!分からない」

思ってもいないの言葉に愕然とした―

「言わなかったのはバッシュの為にした事なの、それくらい分かってよ!!」




弾かれた手に痛みは感じ無くて、その場を走り去る彼女の足音すら聞こえなくなっていた―














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